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天体感測のススメ

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宇宙を感じる生活

<続2>パンスターズ彗星の尾の謎

以前、パンスターズ彗星の尾の謎について考察してみたことを書いていました。
これまでの流れはこちらをご覧ください
パンスターズ彗星の尾の謎   → <続> パンスターズ彗星の尾の謎

「謎の直線の尾は、彗星から沢山のダストが3月5日頃に放出されたからではないか?そうでないと空間上の尾の方向が説明できない」
と推測したものの、放出されたのならばその後明るくなってもよいのに特別な明るさの変化もなく謎のまま・・という状態でした。

その後、ブログの記事を元に聞いてまわったところ、幸いにも彗星研究者の方々に出会うことができました。

結論からいいますとパンスターズ彗星の謎だと思った尾は「ネック・ライン・ストラクチャー」と考えられる、ということです。

「ネックラインストラクチャー」とは、彗星から放出されたダストが、放出した地点に対し彗星軌道の反対側で再び収束するダストの帯のことをいいます。
正確には放出されたダストの彗星軌道面に対して上下の方向の成分のみが収束します。
図に書いて説明しようと思ったのですが・・なかなかうまく書けません(笑)
一応トライしてみますが説明がわかりにくかったらごめんなさいね。

まず、地球からどう見えるかは置いておいて、ここでは彗星と太陽のみで考えます。
彗星は太陽の引力によって軌道を描きます。宇宙空間ですから彗星の軌道が斜めになっている場合もあります。
重要なことは彗星の軌道を面として表わすと「彗星の軌道面上に必ず太陽がある」ということです。

そしてこの法則は彗星から放出されるダストにも当てはまります。
ダストは「彗星自体の速度」と「彗星からの放出速度」が合成された速度で宇宙空間に放たれた物体になります。
彗星本体は直径何km程度で、惑星などに比べれば天体としては小さな物体なので、放出したダストに与える引力は無視できる程度です。そのため放出されたダストも太陽のみの引力で太陽の周りを回る1つの天体と考えることが出来ます。
つまり彗星のダストの軌道もまた「ダストの軌道面上に必ず太陽がある」ということになります。

以上を踏まえて、例えば彗星軌道面を上から見た図はこのようになります。
<続2>パンスターズ彗星の尾の謎_b0253922_12162157.png

ここで、Aの位置にいるとき動いている彗星からあらゆる方向にダストが放出されますが、
その中で軌道面に対して上下に同じ速さで放出したダストの動きを考えましょう。
<続2>パンスターズ彗星の尾の謎_b0253922_12155755.png
図のように彗星軌道面を横から見ると、上に放出されたダストは彗星の上を通り太陽をはさんで反対側のA'の位置で彗星軌道面に戻ってきます。下に放出されたダストも同様です。
専門的には放出された点が「昇交点」となり、ちょうど太陽をはさんで反対側にいったときに「降交点」ということになります。
重要なポイントは、放出された位置から180°反対の位置で彗星の軌道面と交わることです。
収束したときに軌道面の横方向から見るとダストの密度が高くなることからネックラインストラクチャーの尾として見えるようになるのです。
すれ違った後は再び拡散していくことになります。
この現象はAの位置に限ったことではありません。彗星は休むことなくダストを放出しているのでBやCの位置で放出したダストについても同様のことが発生します。
<続2>パンスターズ彗星の尾の謎_b0253922_13212225.png
面白いことに上下方向だけが収束するので、彗星軌道面の上からネックラインストラクチャーを見ても見かけのダストの個数には変化がないために全く見えません。見る方向によって全く見えなくなるダストの尾って不思議ですね。

パンスターズ彗星の5月の尾で推測したときの図をもう一度確認してみましょう。
<続2>パンスターズ彗星の尾の謎_b0253922_15122511.png
3月5日の放出の位置に対して5月31日の位置はおおむね太陽を挟んで反対側にありますね。
たまたま「3月上旬に放出説」にたどり着いたとはいえ驚きです。
ネックラインストラクチャーと考えることで3月5日頃に特別な増光がなかった矛盾をクリアすることもできます。
以前、パンスターズ彗星の謎の尾の長さが5月31日の観測から3800万km程度と計算していました。3ヶ月も前に放出したダストが時間を経て3800万kmもの長さで再び収束している状態って・・想像するだけでゾクゾクしますよね!

シミュレーションもやってみました。方法は四方八方に1km/sのダストを放出しそれぞれのダストの動きを計算します。4月の尾について計算したところ、「3月5日頃に大量放出説」と考えた場合より「ネックラインストラクチャー」による尾の方がシミュレーション結果が一致していることも確認できました。

ただ、腑に落ちないことも出てきました。
1km/sという放出スピードでシミュレーションをすると図のようになったのですが
青点線の彗星本体の方向に対して、赤線の方向にもダストが広がってしまうのです。
(緑の点が大きな粒のダストの分布、橙の点が小さな粒の分布)
<続2>パンスターズ彗星の尾の謎_b0253922_1748844.png
もしこれが見えたとしたらどんな長さで写真に見えるかを書き加えて想像図を作成してみました。
<続2>パンスターズ彗星の尾の謎_b0253922_13474883.png
ネックラインストラクチャーのように収束するのであれば、想像図のように見えても不思議ないと思うのです。
これはしばらく悩んでしまいました。
実際は違っていたということは1km/sという放出スピードの設定がよくないのかも知れないと思い至りました。
そこで通常のダストの尾に邪魔されて見えないのかも知れないが、図の下のような「少なくともこれ以上は伸びてはいない」という条件を作ってみました。
粒の大きいダストの放出スピードの速度の上限をざっくり計算してみると・・
「約170m/s以下」
と出ました。
読み取りもざっくりなので誤差は倍程度はあると見積もっておいた方がいいですが、少なくとも500m/s以上はないのではないかと思います。

ネックラインストラクチャーという特殊な状態を利用して彗星のことを考えるというのも面白いものですね!

11月末から12月のアイソン彗星にはネックラインストラクチャーが現れるのか?
今から楽しみです。



<余談>
実は、ダストシミュレーションは7月に、放出速度の推測は9月末ぐらいにやっていたのですが、宿題が溜まってしまった学生のようにブログに書けずにいました(^^;
書く勢いって大事ですね。
結局、説明もあまりやさしくない中途半端なものになってしまって不完全燃焼です。分かりにくい点はご容赦ください。
by star-feel | 2013-10-27 18:38 | 天体感測(実測編) | Comments(0)

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